彼のほうもね、“探偵さんのアルバイト”ということは、わたしに隠しておきたかったみたいなんです。
たぶん、わたしがいつも、ちゃんとした仕事についてほしいって言っていたのを気にしてくれたのでしょうね。
最初は、軽いアルバイトのつもりだったようですし。
ただ、この日は、お手伝いをして、初めて調査が成功したみたいなんです。
さすがに興奮もしてしまいますよね。
彼も、誰かに話してしまいたかったんでしょう。
これをきっかけに、いろいろと教えてくれたのでした。
“探偵さん”。
なんていうと、漫画なんかでみるストーリーや、映画の中の派手なアクションシーンなんかが頭に浮かんでくるものなのですが、実際の調査って、思ったより“地味”なものなんだとか。
お手伝いをしてほしい、と頼まれ、探偵という職業に興味津々だった彼は、初日から期待して、出かけて行ったそうです。
彼の脳裏に、最初に思い浮かんだのは、やはり“尾行調査”。
相手に気がつかれないように、適度の距離を取り、格好良く、後をつける自分。
ところが、彼が頼まれた仕事は、“張り込み調査”。
テレビのドラマで、たまに、警察が犯人を遠くから見ている。
そんな甘いものでは、ないそうです。
夜中の張り込み。
季節は、冬。
車の中で、身をひそめながら、ひたすら相手が出てこないか、見張っているお仕事。
いくら車の中とは言え、真冬にエンジンの切ってある車内は、悲しくなるくらい寒いそうです。
彼の雇い主である探偵さんが、ある程度の時間まで張り込み、食事とトイレ、しばしの睡眠のため、彼に、もっとも動かないであろう時間に、交代をお願いしていたのです。
張り込み相手は、単身赴任中の男性。
一番、動く可能性があるのが、会社を退社してから、帰宅するまでの間。
そして、帰宅後、シャワーを浴びてから、出かける可能性があるのか、だいたい夜の10時くらいだそうです。
真夜中や、朝方から、浮気のために出かける人は、めったにいないそうです。
そりゃ、そうでしょうね。
普通に考えても、そうだろうと思います。
依頼者である奥様も、たまに単身赴任先のアパートに訪れることもあるそうなのですが、アパートの中には浮気の気配が全く感じられなかったそうです。
ただ、長年連れ添った夫婦というのは怖いもの。
そのちょっとした変化で、敏感に浮気を感じ取ったのだとか。
何かが違う。
調査の依頼をするまでの1ヶ月。
表面上は普通に接しながら、注意深く旦那さまをチェックしていたというのですから、同じ女としても、ちょっぴり怖くなってしまいますね。 |